私はタクシードライバーである。これといって行き先はない。車庫を出庫して、時間がきたら車庫に戻るだけなのである。
でも、お客さんを乗せると行き先が決まる。どこへ行こうか、と、当てもなく走っているからか、目的地を告げられると安心するようである。

私はタクシードライバーである。そして。2009年からライブハウスで歌っている。
きっかけはおよそ三十年前のアピアとの初めての出会い、当時私は24才くらいのプータロー(死語)でした。バイト先で知り合った友のライブに誘われて訪れた。そのステージはその頃の自分には眩しすぎて、その時の映像が胸の奥の方に『憧れ』として刻印のように刻まれてしまったようだった。

そう思ったのならその後すぐにオーディションを受けて出演を目指せばいいものを、行き先の決まらない私は20数年の時を隔てて45才でアピアで歌いだしたのであった。どうにも私には行き先がない方が性に合っている様である。